「ポタ…ポタ…」
秋の夜、私は田んぼのそばの小さな小屋で目を覚ましました。屋根から露が落ちてくる音です。
この仮小屋(かりごや)は、稲刈りの時期だけ使う簡単な作りの小屋。壁も屋根も、茅(かや)という草で編んで作ってあります。夜になると、動物たちが稲を荒らしに来ないよう、見張りをするのです。
「あっ…」
私の袖に、冷たい露のしずくが落ちてきました。屋根の茅を編んだ目が粗くて、夜露がすり抜けてしまうのです。
「シトシト…」
静かな夜に、露の落ちる音だけが響いています。遠くからは、コオロギの声も聞こえてきます。
「不思議だな…」
私は濡れた袖を見つめました。本当なら、露に濡れるのは嫌なはずです。でも今夜は、この静けさの中で、なんだか心が落ち着いていきます。
「月さんも、見てるのかな」
小屋の隙間から、月明かりが差し込んできます。まるで銀色の糸のよう。
「サワサワ…」
外では稲穂が風に揺れる音。まだ刈り取っていない稲が、月に照らされて波のように光っています。
「ここにいると、世界が違って見えるね」
普段は気づかない音や光、匂いが、この小さな小屋の中からは、とても鮮やかに感じられます。
露は、まだ私の袖を濡らし続けています。でも不思議と、それも心地よく感じられてきました。
「この小屋も、露も、夜も、みんな大切な仲間みたい」
私はそっと目を閉じて、夜の音に耳を澄ましました。露の音、虫の声、稲穂の揺れる音。どれも、秋の夜の宝物です。
朝が近づいてきました。東の空が、少しずつ明るくなっています。
「ありがとう、小屋さん」
立ち上がると、袖からポタポタと露が落ちます。この夜のことは、きっといつまでも忘れないでしょう。
外に出ると、朝露に濡れた田んぼが、まるで宝石をちりばめたように輝いていました。昨夜の静かな時間は、私に大切な何かを教えてくれたような気がします。