「今日は、田子の浦まで行ってみよう」
私は寒い冬の朝、海辺へと向かいました。
「シャキッ、シャキッ」
足元の砂が凍っていて、歩くたびに冷たい音を立てます。息を吐くと、白い煙のように見えます。
「わぁ…!」
浜辺に出た時、私は息をのみました。目の前には青い海が広がり、その向こうに、まるで天まで届きそうな富士山がそびえ立っています。
「まるで白い絹を被(かぶ)ったみたい…」
富士山は真っ白な雪に覆われて、どこまでも美しく輝いていました。空気が澄んでいて、山の形がくっきりと見えます。
「あっ!」
よく見ると、山の頂上には今も雪が降り続いているのが分かりました。真っ白な粉のような雪が、静かに積もっていきます。
「不思議だな。ここは晴れているのに」
田子の浦の空は青く澄んでいて、一片の雲もありません。でも富士山の頂上だけは、今も雪が降り続けているのです。
「シャー、シャー」
波の音が静かに響いています。冷たい潮風が頬を撫でていきます。
「まるで夢みたい」
青い海と白い富士山。その間で、時間が止まったかのように雪が降り続いています。まるで絵のような風景に、私はしばらく見とれていました。
「富士山って、こんなに美しいんだね」
私はつぶやきながら、砂浜に座りました。波の音を聞きながら、ずっとこの景色を眺めていたい気持ちになります。
その日、私は和歌を詠みました。
「田子の浦に出てみると、白い布をかぶったような富士の高い峰に、今も雪が降り続いています」
時が経つのも忘れて、私はずっと富士山を見つめていました。頂上では、まだ雪が音もなく降り続いています。
「ホーッ、ホーッ」
どこかで鷗(かもめ)が鳴きました。その声が、この静かな世界にそっと溶け込んでいきます。
帰り道、何度も振り返って富士山を見ました。夕暮れが近づいても、山の頂では雪が降り続けているようでした。
「また来るからね」
私は小さく手を振りました。この美しい景色は、きっといつまでも心に残ることでしょう。