春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山
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春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山

新古今和歌集百人一首

「あら、もう夏が来たのね」

私は宮殿の窓辺に立って、天の香具山を眺めていました。

「昨日まで桜が咲いていたみたいなのに…」

山の緑が、日に日に鮮やかになっています。春の優しい色から、夏の濃い緑へと変わっていくのが分かります。

「あっ!」

ふと目を凝らすと、山の斜面に白いものが見えました。

「まるで、白い布が干してあるみたい」

昔から、天の香具山では夏になると白い着物を干すと言います。神様が天から降りてきた山だから、天に一番近い場所なのです。

「ふふっ、本当に夏が来たのね」

白い布が風にゆらゆらと揺れる様子は、まるで山が白い羽を広げたよう。その下で、新緑がキラキラと光っています。

「シャワシャワ…」

風が吹くたびに、木々が涼しげな音を立てます。空には白い雲が浮かんで、ゆっくりと流れていきます。

「不思議だわ。季節がこんなにもはっきり変わるなんて」

つい最近まで春の柔らかな風が吹いていたのに、今は初夏の爽やかな風が頬を撫でていきます。

「教えてくれてありがとう、香具山」

私は微笑みながら、山に向かって話しかけました。天の香具山は、白い布をはためかせながら、静かにうなずいているようでした。

窓の外では、鳥たちが気持ちよさそうに飛んでいます。その姿を見ていると、季節の移り変わりが、とても素敵なものに思えてきました。

「また明日も、見に来ようっと」

私は窓を閉める前に、もう一度山を見上げました。白い布は、まるで私に手を振っているよう。

夏の風が運んでくる新しい季節の匂いに、心が弾んでいきます。天の香具山は、こうして毎年、私たちに夏の訪れを教えてくれるのです。

"百人一首" の偉人ノベル

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